Personal Dynamic Media
The New Media Reader: p.p.391-40
初出
Computer 10(3):31–41. March 1977.
邦訳
鶴岡雄二訳・浜野保樹監修『アラン・ケイ』p.p.34-59
1970年代半ばにアラン・ケイとアデル・ゴールドバーグによって提唱された”ダイナブック”の想像性と大胆性は目を引くものであった。ケイとゴールドバーグがこの論文でダイナブックのビジョンを提唱する前は、その可能性は全く想像できるものではなかった。ほとんどの人は、コンピュータをエンジニア、またはせいぜいビジネスマンのためのツールとして見ていたが、ケイは子どもにとっても使える、また創造的に使えるツールでもあると考えた。この先見の明は、ゼロックスパロアルト研究所のグループが開発したノートブックコンピューティングの使用に関する具体的なアイデアが価値のあるものであるということを証明したのである。ケイとゴールドバーグは、強力で専用のコンピュータを個人に提供することがより良いアプローチになると信じていた。当時の「タイムシェアリングコンピュータはユーザにとって自由をもたらす開放的なものである」という概念を覆したのである。 この論文では、ケイとゴールドバーグが「1.ダイナブック思想を提唱するに至った背景」と、「2.暫定版ダイナブックによって可能になることとそのシステム」について論じられている。
Introduction
ゼロックス社バロアルト研究所の学習研究グループは、知識の伝達と操作のあらゆる側面について研究している。誰でも所有でき、情報に関するユーザーの要求を事実上すべて満たす能力を持っている媒体を、ノートサイズの個人用ダイナミックメディア、"ダイナブック”という設計思想として現実のものになった。
1.設計の背景 (本文中Background~)
ケイとゴールドバーグは、子どもの教育用に作られたLOGOというプログラミング言語に強い関心を持っていた。この言語は、会話の相互作用性や自分でそれを操っているという事実を子どもが実感できるため、達成感を与えることや、注意力を持続させることにもなる。また、子どもの場合、処理能力に限界があるタイムシェアリングコンピュータでは満足することができない。こうした要因から、子どもをユーザとして注目していた。 2.暫定版ダイナブックによって可能になることとそのシステム (本文中An Interim Dynabook~) メッセージとは、ある意味で何らかの概念のシミュレーションである。メディアの本質は、メッセージの収め方や編集方法、見方によって大きく左右される。したがって、それらの要素をシミュレーションする必要がある。デジタルコンピュータは本来算術計算をする目的で設計されたが、記述可能なコンピュータならそういったメッセージをシミュレートする能力を持っている。音声、テキスト、画像、ビデオなどの既成メディアを統合し、人が活用(シミュレーション)できるようにする、この新たな“メタメディア”はユーザが一方的に情報を受け取る受動的なものではなく、ユーザーが自ら手を動かし組み合わせる能動的なものなので、ユーザとコンピュータの間に"双方向的な会話”という関係が生まれる。これを実現させるためにダイナブック思想は提唱された。
暫定版ダイナブックは、書き換え可能ディスク、大容量の記憶メモを備えており、これまでより編集の利便性が向上し、さらにそれを持ち運ぶことが可能になる。また、用途に合わせた多様なフォントによって解像度が向上し高品質な文字が表示され、メニューという単純なコマンドを操作するだけで、文章の削除・移動・構造化といった編集を行うことができる。入力装置はタイプライター型キーボード、コード・キーボード、机上で動かして位置を入力するマウスなどがあり、簡単に組み込める設計である。
また、暫定版ダイナブックのシステムは、スモールトーク・プログラミング言語を使って設計されている。 Drawing/Painting:小さなドットを多数表示させることによって、スケッチと同様の品質の絵画やハーフトーンペイントが可能となる。
Animation and Music:シミュレーションによってどんな音色でも表現できるようになる。その音色はオーケストラの雰囲気を表現し、記録、編集、使用ができる。
Simulation
ここでは、あらゆる人が作ったシステムについての具体的な説明がなされている。「アニメーターが作成したアニメーション・システム」では、SHAZAMと呼ばれるアニメーションツールを用いてどのフレームでも動かしながら編集することが可能になった。また「プログラミング経験の全くない子どもが作ったDrawing/Paintingシステム」は、ポインティングデバイスで画面に絵を描くことを可能にした。この他にも、「意思決定論の専門家が書いた病院シミュレーションプログラミング」、「音楽家がプログラムしたオーディオ・アニメーション・システム」、「音楽家がプログラムした譜面作成システム」、「高校生が作成した電気回路設計システム」について、その仕組みが論じられている。
Conclusion
ダイナブックに柔軟性と汎用性を持たせ、同時に強力なパワーを持たせたい。スモールトークを通じて無限の可能性と誰にでも自分がやりたいことを実現させるための道具(システム)を作成できる機能を提供するために膨大な労力を傾注してきた。ユーザの大部分が必要としていることに関しては、既成のプログラムを供給し全てを初めから作らなくて済むような環境を提供することで、ユーザが望むことを実現するための基盤になるのである。